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組織を大きく動かすのは「正論」よりモメンタム———メルカリ ハヤカワ五味さんのAI推進

ハヤカワ五味さんがmercariオフィスに立っているタイトル見出し画像

組織や人はそう簡単には変わらない。そう感じている人は多いのではないでしょうか。

メルカリという大きな組織で生成AI活用の浸透を担ってきたハヤカワ五味さんは「組織の変革を進めるには、モメンタム(勢い)がなにより重要」と言います。

「オセロが一気にひっくり返るように組織が変わる」には何が必要なのか。
どうぞ、最後の「まとめ」までお読みください。

ハヤカワ五味さん
ハヤカワ五味

株式会社メルカリ AIストラテジー。 大学在学中からランジェリーブランド「feast」で起業し、フェムテックプロジェクト「ILLUMINATE」など複数の事業を立ち上げ。それらの事業の譲渡などを経て、2024年7月からはメルカリで生成AIを推進。現在はAIストラテジーとしてエージェンティックなAI活用に取り組んでいる。

フジイユウジ
【Agendインタビュアー】 フジイユウジ

Agend編集長。
スタートアップや様々な事業の経営やグロースに携わる中で、事業を成長させるためのチームコミュニケーションに興味を持つようになり、仕事のコミュニケーションメディア「Agend」を立ち上げた。

技術者じゃない私が生成AIを広めることに意味がある。

フジイユウジ
今回は、メルカリで生成AIの推進を担当されてきたハヤカワ五味さんに「どうやって組織に大きな変革を起こすか」をお聞きします。
技術者ではないハヤカワさんが、生成AIの推進をすることになったのは何故なんですかね?

ChatGPTが出てきたときに「あ、もうこれからは生成AIだ」って思ったんです。

ハヤカワ五味さん

真剣な表情で話すハヤカワ五味さんのアップ。。

それで、これまでのキャリアとはまったく違う方向に進んで、2024年7月から「生成AI頑張るぞ担当」を自称するようになって。

ハヤカワ五味さん

フジイユウジ
「生成AI頑張るぞ担当」っていいですね (笑)

ともかく組織を大きく動かすには、みんなが「これは良いことだ」って感じるモメンタム(勢い)が必要なんです。

ハヤカワ五味さん

モメンタム
事業やプロジェクトが前向きに動き出し、その勢いによって次なる前進を生みやすくなっている状態。「流れが来ている」とチーム全体が感じている集団的な手応え感。

サム・アルトマンが Y Combinator 時代に「スタートアップではこの勢いがきわめて重要で、勢いがあれば多くの問題は乗り越えやすいが、勢いを失うと立て直しが難しくなる」と述べています。

だって、個々の合理性だけで言ったら、仕事を進めるのにAIを使う必要がない人がほとんどなので。
そこに「AI時代が来るから適応しましょう」なんて経営視点を持ってきても、社員は動けないですよ。
合理性を超える、非合理的なモメンタムを醸成するしかないと思って、ちょっとバカっぽいけど「生成AI頑張るぞ担当」を名乗ろうって決めたんですね。

ハヤカワ五味さん

フジイユウジ
いきなり結論めいた話が出てきたな〜
大きな組織変革って社員の9割くらいは必要性がわからんことだから、巻き込むためのモメンタムが一番重要だと。

そうなんです。
一年経過した時点での生成AI利用率は95%だったんですが、最近100%になりました。
より高度な使い方もされるようになってきていると思います。

ハヤカワ五味さん

メルカリの決算資料のうちの1ページ。AI Task Forceを通じ、業務の分解、 及びAI活用を前提としたプロセスへの再構築が完了。従業員のAI仕様率は100%、エンジニアひとりあたりの開発量はYoY1.9倍という報告がされている。

2026年2月9日に発表の「FY2026.6 2Q 決算説明資料」で、メルカリのAIツール利用率100%が発表されました。(株式会社メルカリ IR情報より引用)

AI関連って技術的なバックグラウンドが求められやすいので、私がやっていることを批判されたこともありました。
社内ではないですけど、SNSで一般層向けにAIのことをわかりやすく解説していると「技術者でもないのにチャラついたインフルエンサーがAIの話しやがって」とか言われるんですよ。

ハヤカワ五味さん

フジイユウジ
マジすか。
その批判のほうがしょうもないと思うけどな。

技術者や専門家から見れば当たり前のことでも、一般層は知らないことが多いんですよね。
それをわざわざ説明することが「ダサい」って感じる人もいるんだと思うんですけど、だからこそ技術者じゃない人が生成AIの使い方を一般向けに広める意味があるってことですよね。

ハヤカワ五味さん

会社を変えるには、まず「盛り下がり」を潰すことから。

フジイユウジ
専門家じゃない人が持つ「一般層の目線」が大切、というのは組織開発とか組織変革において重要な視点だと思います。

会議室で対面に座るフジイとハヤカワ五味さんの写真。笑いながら話している。

フジイユウジ
AI推進ってキラキラしてるイメージを持ってる人も多いと思うんだけど、実際やることは組織変革だから、とてもキツい仕事ですよね。

めちゃくちゃ大変だし、キラキラなんてしてないですよ (笑)
そもそも、「AI活用して」って言われても、ほとんどの人は具体的に何をしていいかわからないんですよね。
「社内ルールを教えてくれるAIチャットボット」くらいはみんな思いつくんですけど、そういうのは作っても社内で使われないことが多くて。

ハヤカワ五味さん

フジイユウジ
あー、わかります。
「使われないAIチャットボット」を作りがち問題、あるあるだわー。
「この技術を使って何かやらなきゃ」ってのが起点になってと、本当に必要なものかどうかわからないまま作っちゃう。

あるあるです (笑)
あと、生成AIの特性を理解していないまま、初手から何でも自動化をやろうとするパターンも多くて。
自動化なら設計から考えてRPAやルールベースのシステムも検討すべきなんですけど、安易に生成AIでやろうとするから失敗しがちですね。

ハヤカワ五味さん

フジイユウジ
「これからの時代はAIだ」って大方針があっても、個々の現場やメンバーたちが適応できていないと、表面的なことをやってしまいがちってことですね。

そうなんですよ〜!!
過剰に期待していたのがガッカリに変わると、モメンタムが失われる。
だから、勉強会とか質問に答える場を作って、期待値を下げるというか、生成AIが苦手なことを伝えたりしました。
ガッカリしないようにしてから、実用的な使い方を見せて「生成AIはこんなことが得意なんですよ」って伝えるようにしてましたね。

ハヤカワ五味さん

フジイユウジ
盛り下がるポイントを押さえていった感じですかね。

人がどこでガッカリして、どういうときにスゴいって感じるかを掴んでモメンタムをブチ上げていけるかが、技術的な知識よりもずっと大事なんですよ。

ハヤカワ五味さん

フジイユウジ
うわー、マジそれだ!!!
組織の変革に必要なのは「みんながガッカリしそうなこと」と「どうしたらスゴいって感じてくれるか」を掴んで動くこと……!

「なんかいいかも」──合理性を超えたモメンタムが、大きな変革になる。

フジイユウジ
それで組織変革が一気に進んだ感じですか?

そんな一気に良くならないから、地味ですよ (笑)

ハヤカワ五味さん

笑顔で話すハヤカワ五味さん。

組織を動かしていくには、まず小さな火を消さずに前向きに考えている人たちを少しずつ増やしていくことですよね。
変わることに前向きな人って必ずいるんで、そういう人が動けるように基本ルールを整備したり、使っていいツールを決めたんです。

ハヤカワ五味さん

フジイユウジ
「使いたいなら手を挙げて」じゃなくて、先に自由に動けるようにしておいてあげるのは重要ですね。

「この範囲であれば、確認はいりませんよ」というのを明確にして、めちゃくちゃ自由に動いてもらう
最初は、私が全部の現場に入ってやる覚悟だったんですけど、限界があるんですよね。私ひとりで回せることは2〜3領域くらいしかなくて、時間もかかるし、思い通りに進まない。
だったら、「各チームに動ける人が生み出されていく環境整備」をしたほうが広まっていくんだなって気づいたんです。

ハヤカワ五味さん

フジイユウジ
これ、変化を生み出すのに大事だなことだな〜
AIではない、あらゆる組織改革に必要な考え方かもしれませんね。

それから、執行役員とかエグゼクティブを引っ張り出してきて、「AIを使い始めた当初、ぶっちゃけどういう不安がありましたか?」ってインタビューをしたんですよ。

ハヤカワ五味さん

社内へ向けたトークセッション「リーダーズと語る!AI/LLM舞台裏 Open Door」

フジイユウジ
おー、なるほど。
ふつうは「AIは素晴らしいから使っていきましょう」ってトップダウンのメッセージを出すもんですけど、あえて不安を聞いたわけですね。

それを、みんなが共感できるような形に編集して、社内ポッドキャストとして配信したんですよね。
たとえばCTOが「正直、最初にChatGPTが出てきた時に絶望した」って語ってくれたんです。

ハヤカワ五味さん

ぶっちゃけると、当初はある種の「絶望感」を感じていたんですよね。絶望には、ポジティブな絶望とネガティブな絶望があると思ってて、それが入り混じったような絶望感がその時にあった。

リーダーズと語る!AI/LLM舞台裏 Open Door Vol. 02 より引用
執行役員 CTO Japan Business 木村 俊也さん(@kimuras)の発言

フジイユウジ
「これまでの常識が通用しない世界になってしまった」って意味なんだろうけど、CTOが「絶望した」って言ったのはインパクトありますね。

それから「そのショックをみんなで乗り越えて、活用していけるんじゃないかと思っている」って言ってくれたんですね。
「変化を受け入れろ」と命令するんじゃなくて、「みんな不安だけど、がんばろう」っていうメッセージを先に設計する。
そのほうが結果的に人は動けるようになるんですよね。

ハヤカワ五味さん

オセロが一気にひっくり返るみたいに組織が変わる。

フジイユウジ
生成AIのような「わかりやすい転換点」であっても、組織に変化を起こすことは難しいってことですよね……

ポジティブ・ネガティブ問わず、引っ越しだろうが結婚だろうが、多くの人にとって変化というものがストレスだと思うんですよね。

ハヤカワ五味さん

フジイユウジ
あー、それはすごく腑に落ちますね。

「仕事のやり方を変える」とか「AI活用」という変化そのものにストレスを感じてるってことを理解していないと、「なんでやらないやつがいるんだ」って人を責めることになるじゃないですか。
だから、非合理的な「なんかいいかも」っていう感覚、モメンタムを作る「社内マーケティング」が必要なんですよ。

ハヤカワ五味さん

フジイユウジ
おおおおお
「技術者じゃない人がやる意味がある」っていうの、まさにこれですね。
専門家なら「やった方がいい」と思えるけど、一般層には受け入れられにくいよと。

変わることの価値がわかる人たちだけで盛り上がってると、全体は盛り下がって覚めちゃうんですよ。
変わることをストレスに感じている一般層をリスペクトしてないから。

ハヤカワ五味さん

フジイユウジ
本当にイイ話だな〜
大きな変革の「意義」を伝えるには、変化を求めていない人たちの気持ちを理解している必要があるんですね。

AI活用してる人がMVPに選ばれるとか、偉い人に褒めてもらう機会を作ったりもしました。
偉い人に「すごい!」って言ってもらうだけで全然違うんですよ。

ハヤカワ五味さん

会議室のテーブルの前で身振り手振りを入れながら話すハヤカワ五味さん

全体に浸透してくると、活用できていないチームのマネージャーは焦るんですよね。
「〇〇の部署がめちゃくちゃ成果出してるのに、こっちの部署はまだまだ使えてないじゃん」って話が出て、急に動くようなことがあったり。

ハヤカワ五味さん

フジイユウジ
まさに勢いがついて、変革のモメンタムが大きく強くなっていく感じがするな。

こういう社内改革にもPMFがあると思ってて。
ある時から、オセロが一気にひっくり返るみたいに組織が変わるというか。

ハヤカワ五味さん

フジイユウジ
社内PMFって面白い観点だな〜!

PMF (プロダクト・マーケット・フィット)
作った商品やサービスが、必要としている人に受け入れられている状態。

元はスタートアップやサービス開発で使われる用語ですが、ここでは社員に広がっていく手応えが生まれることをPMFとして語っています。

フジイユウジ
「組織を一気に変えるのではなく、半径5mくらいで草の根的に小さくやる」って、よく聞きますよね。
でも、それだけじゃ一部の詳しい人だけしかやってない状況に留まってしまいがち。組織全体まで波及しないんですよね。
小さく始めはするけど、オセロが一気にひっくり返るPMF的な状態を狙っていくことが重要なんだな。

社内PMFした感じなると、評価プロセスにAI活用度が組み込まれたりするんですよね。
「AIを使わないと損をする、使えば評価される」っていうレールを経営側が敷いてくれれば、あとはもう広まっていきますよね。

ハヤカワ五味さん

フジイユウジ
経営側がそこまでレール引いてくれれば、マネージャーも仕事しやすくなりますよね。

ですです。
「AIのために一時的にアウトプットのスピードが落ちます」っていうのも、正当な理由があるって判断されるようになるんですよね。

ハヤカワ五味さん

両手を組んで、真剣に話すハヤカワ五味さん

フジイユウジ
最初は期待値を下げて、社内のあちこちに小さな火を灯す。
あるタイミングで仕組みや経営陣の決断を利用して一気に広めるってこと、明確に狙って実行してますよね。

社内PMFするまでは、私がバカっぽく見えてもモメンタムを高めるようなことを言い続けないといけない。
でも、プライドが高い人だとそれができないんですよね。
私だって、新しいことを話して「カッコイイ」って思われたいんですけど、それだと人や組織が動くわけないじゃないですか (笑)

ハヤカワ五味さん

まとめ: 小さく始めるだけで終わらない。モメンタムを大きくしていく取り組み。

「まずは小さく始める」は大切ですが、小さく始めるだけで終わってしまいがちな組織変革。ハヤカワ五味さんの話は、「会社全体の空気が変わる」まで持っていく貴重な実践例でした。

  • 動ける人を増やしていく。
    まず1〜2割の興味を持った人が活躍できる環境を作る。「発火」した人をサポートしていくうちに組織内に広がっていく。
  • ただ盛り上げるだけでは広がらない。
    過剰な期待がガッカリに変わるとモメンタムは失われる。「人がどこでガッカリし、どこをすごいと感じるか」を掴むことで、モメンタムをコントロールする。
  • 小さく始めるだけで終わらない。
    わかっている人たちが小さく取り組んでいるだけでは広まらない。変化を求めていない人たちの気持ちを理解し、リスペクトを持って情報を届けることで全体のモメンタムを作り、社内PMFに近づけていく。

ハヤカワ五味さん X/Twitter

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(企画・編集:フジイユウジ / 取材・文・撮影:奥川 隼彦)取材:2026年2月

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